06 与薬

入院して、始めて出された薬は、エビリファイだった。どこにどう作用したのかは分からないまま、少しづつ増量はされて、退院後も変わらず同じ薬。

退院時、大地は誇大妄想の話をあまりしなくなっていた。話したとしても、内容が、大分ありがちな話になっていた。

エビリファイは、劇的な変化はないけれど、ゆっくりと効いていたのだと思う。

やっとやっと入院し、これできっと劇的に良くなると思い込んでいた私には、こんなにもスローに変化していくとは想定外で、医師や病院に不信感を覚えたし、薬に対しても、これを飲んでいていいの?と随分調べたものだった。エビリファイは、劇的にわかりやすく陽性症状を改善してくれたわけではないけれど、ゆっくりと少しづつ、効いていたらしい。

けれど、攻撃的な口調で過去の話を出して責めてくるというのは、どうしたものか…。実際、最初は、妄想の中の実際には起きていない事で責められていたから、症状の一つなのだと自分に言い聞かせることは出来たけれど、それでも心が傷んだ。それが、実際にあったことを、何度も何度も責めてくる。こちらが、そんなつもりではなかったと言っても、まったく聞く耳を持たず、心はズタズタに切り裂かれるようだった。しつこくて、その攻撃的な話を終わらせるのは毎回大変だった。

「わかったけど、今はご飯を作らないといけないから。」「もう仕事に行かないといけないから、帰ったらまた聞くね。」などと、その場しのぎで逃げていた。

この攻撃的な口調は、症状なのか?薬のせいなのか?

そして、入院中に「眠れない。ベッドが合わないのかも…」とも言っていた。これは、一時的に眠剤が出されたようだが、息子にとってはあまり効果がなかったようで、退院時の処方薬には入っていなかった。

私は、不眠なのではなく、『実際は寝ていても、眠れたような気がしていないだけ』ではないかと思っていた。

退院後は、入院前のように深夜過ぎるまで、妄想の中の人に会いに出かけることは無かったが、なんとなく落ち着かない様子で、「走ってくる」と言って10㌔くらい走りに行ってしまったり、家の中でも絶えずうろうろしていた。

退院後2回目のクリニックでの診察で、私はこれらの事を伝えた。

女医さんは、この日、自分は『統合失調症』だと思っている事を私と大地に言い、今後はその治療をしていくと。

そして、大地を見ながら、今はとにかく安静にする事と薬を飲むことが大事なんだよ。と、話してくださった。大地は、ぼーっとして、聞いているのかどうか分からない表情だったが、「はい」と、うなづいていた。

さらに、「この薬は、効く人にはすごく効くんです。たぶん、大地くんは効くと思いますよ。」そう言って、ヒルナミンが処方された。

医師に伝えた、攻撃的な口調で…という話は、息子の気に触ったらしく、診察後、「なんで先生にあんなこと言うんだよ!」としつこく怒っていたが…。

その夜からさっそくヒルナミンを内服。どんな変化があるかとよく観察していたが、翌日には「眠れた」と言っており、さらに、翌々日には、夜、走りに行かなくなった。疲れて、くったりとしているように見えた。

1週間後の診察で、そのことを伝えた。相変わらず暴言は続いていたが、それが統合失調症と関係があるとは思わなくて、過去のわだかまりやずっと言いたくて我慢していたことを、今言っているんだと思い、主治医の前でその話はしなかった。

本人が横にいては、なかなか主治医に辛い事や悩んでいることを話すことができなかったというのもあった。

その後も、しばらくは1~2週間おきに通院していたのだが、ある日の診察で、「結構、厳しいことを言われます」とポロリと言ってしまった。また「なんであんなこと言ったんだ!!」と大地に言われてしまうと思ったのだが…

その女医さんは「あんまり厳しいこと言ってもさ…お母さんだって、その時にはいろいろ大変だったんだろうからさ。」と言ってくださった。私は、大地が精神病になり、話しても何も理解してもらえないのではないかと思っていたのだが、主治医の先生の対応は、精神病でも人間であることが大前提で、ダメなことはダメなのだと、きちんと大地に向き合って話していた。

私の方が、大地を認めていなかった。統合失調症だからと、まるで腫れ物に触るような接し方をしていた。息子なのに。。。

先生にとっては、統合失調症だろうとなんだろうと、人だった。

大地が、『人として、私の子どもとして、18才の大人として』何が大切なのか、何をしてはいけないのか、ちゃんと向き合ってくださっていた。

統合失調症だって、人間なのだ!そんな当たり前のことを私は忘れて、大地をいたわって、病人として扱っていた。

大地は先生の言葉に、一瞬はっとしたような様子で、うなづいていた。

その日、大地は私を責めるようなことは言わなかった。

それからも、大地はたびたび私を責めるようなことを言ったし、家の中をうろうろそわそわと動き回るような様子はあった。テレビは、10分も座って見ていられないようで、小説どころかマンガ本も読めないようだった。

ヒルナミンが増量され、学校にも通うようになってから、ある日の診察の時、私は主治医に、「お母さんから見て、最近どうですか?」と聞かれ、悩んだ挙句、「なんというか…妄想はあまり言わなくなったんですが、そわそわしている気がします。まだ、くったりとしていない気がします。」と伝えた。

すると先生は、少し考えてから、「薬を増やします。薬を変更するときは、以前から使っていた薬を使わなくなった影響か、新しい薬の影響かを知るために、まずは、新しい薬を増やして、様子をみてから、今の薬を少しづつ減らしていきます…」と説明してくれた。(この辺りは、医師により違うのだろうと思う。正解は分からないが、大地の主治医は慎重なタイプなのかなと思う)

そして、リスパダールとアキネトンが追加された。

リスパダールが追加されてから、大地の私を責める言葉は、少なくなった気がする。それは、くったりとして、一日の大半を寝て過ごすようになっていたから、私に過去の責めるような話をする時間がなくなったからだったのかもしれない。

ともかく、ヒルナミンだけの時よりも、さらに大地は、くったりとして、一日の大半を寝て過ごすようになった。その様子は、まるでトライアスロンでもした後かのように、身体は重そうで、起き上がるのも大変そうだった。

昔、幼馴染が精神分裂病で入院した時に、「入院した方が悪くなった」とか、「あんなにだるそうにしてるのは薬のせいだから」と言って薬をやめてしまったことは、絶えず頭の片隅にあった。

『入院した方が悪くなった』というのは、暴言がひどくなったということではなかったか?そして、『だるそうにしている』というのは、昔は非定形の抗精神病薬がなくて、副作用が強く出たからではないのか?

けれど、働きすぎて、炎症を起こしている脳の機能を休ませるために、身体もくったりと、疲れて動かないようにしなければならないのではないか。

見たもの、聞いた音、身体を使って感じたこと、それらのすべては脳とつながっていて、何らかの刺激となる。脳を休ませるためには、生命維持のための食べることなど以外のすべての活動を休止して、できる限り刺激を与えないこと。それが、急性期の陽性症状のある時には、必要なのではないか。

そう思った。そのために、薬が必要なのだと…。

統合失調症である以上、完解はあっても完治はない。薬は永久に飲まなければならない。もちろん、医学が発展し、劇的な治療法が発見されれば別だが、現在の医療では、薬はずっと飲み続けなければならない。途中で勝手にやめることは絶対にダメだ。私の幼馴染が自死したことが、頭を離れない。寿命を全うするまで、大地が大地らしく生きていくために、もしかしたら、薬による肝機能障害などがあるかもしれない。それでも、人生を、自分らしく幸せに生きていくためには、脳の機能の回復の方が優先される。

私は大地に話した。

「おばあちゃんがさ、甲状腺の癌になって、甲状腺っていう場所を全部取っちゃったでしょ。以来さ、おばあちゃんは甲状腺のホルモン剤っていう薬をずっと飲み続けてるんだよ。これは一生なんだよ。もし止めたら、死んでしまう。」

「癌になった人がさ、手術の後も、抗がん剤っていう薬を飲み続けたりすることがあるんだよ。途中でやめると、再発するかもしれない。だから、薬は、先生にいいって言われるまで、飲み続けないといけない。」

「大地の病気もね。脳の機能の癌ではないけれど、同じようなレベルの病気なんだよ。でも、他の癌と違うのは、薬さえ飲み続ければ、再発を防げる。だから、絶対に、どんなに大丈夫だと思っても、薬を勝手にやめてはいけないよ。」

その後も、しばらくは、大地が薬を飲むのを確認し、うっかり忘れたときには、鬼のように怒って悲しんで、「薬を忘れたらとんでもないことになる!」と言い続けた。

私は、子育て中、体調が悪そうだと思ったときは、よほどのことがない限り、薬は飲ませずにゆっくり休ませて治したり、高熱で病院受診したとしても、風邪だと分かった時などには、こっそり、医師が処方した抗生物質を子どもに飲ませなかったりしていた。基本的には、薬を飲ませるより、自己免疫力で治したいと思っていて、子どもたちは、小学校6年間で3日以上学校を休んだことがなかったし、めったに薬を飲ませたこともなかった。

その私が、統合失調症の大地には、「絶対に薬を飲まなければならない」そう言って、3年経った今も飲ませ続けている。

統合失調症とは、そういう病気なのだと思う。

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コメント

  1. ピアス より:

    こんばんは。結論として、何が言いたいのですか。当事者の私には、何の役にも立たないお話ですが。こういう内容でしたら、ブログに書かずに本として出版されたら、如何ですか。自費出版でも、ある程度は、売れると思われますけど。

    • 森の民 より:

      ピアスさん、ごめんなさい。
      当事者の方なんですね。
      私のブログを読んで、不快な気持ちになってしまう人も、沢山いるかもしれないと思っています。

      症状や治療は、100人いれば100通りです。考え方も100通りですから。

      私自身が、息子が発症した時に、いろんな方のブログを拝見して、参考にさせてもらったり、「自分だけではない」と、励みになったりしたので、ひとつの記録として書いています。

      あと、このブログは、あるプロジェクトに参加していて、もしも広告収入などがあると、統合失調症の啓蒙活動などに使われるようです。

      私も書きながら、何が言いたいのか分からなくなってきてしまいます。もう少し、整理しないとダメですね。

      ご指摘ありがとうございます。

  2. みぃ より:

    私は、同じ統合失調症の家族を持つものとして読ませていただいています。
    このときはうちもこうだったとか、あぁこういうこともあるんだなと参考になります。
    私は早く治ってほしいと焦っていましたが、焦っても無駄だと最近やっと思えるようになりました。
    気長に見守ります。
    続きもまっています。

    • 森の民 より:

      みぃさん、コメントありがとうございます。

      私も、日々焦らないようにと言い聞かせています。
      まだ、寛解までの道のりは見えてきませんが、今は、発症前と同じ息子に戻すのではなく、新しく、殻を脱いで、前とは違う息子になることを、受け入れたいと思っています。

      これからも、ゆっくり更新します
      よろしくお願いします。

  3. 筑紫 より:

    はじまして。当事者ですが、再発防止の薬を飲んでるのみで寛解しています。発症から10年が経ちます。こちらを読んで家族の気持を知りました。今は仕事をしながら、建築士の資格もなんとかとりました。記憶力集中力は発症前よりないですが、人より倍の時間をかければ人生諦めなくても大丈夫と信じています。息子さんが希望をもてる日が来るように願っています。

    • 森の民 より:

      筑紫さん、ありがとうございます。
      このブログを書きながら、当事者の方が家族の気持ちを知って、悲しくなってしまうのではないかというのが、とても心配でした。
      けれど、筑紫さんのコメントに、励まされました。とても嬉しいです。
      私は、息子が統合失調症になって、本当に良かったと心から思えるところまで、到達しようと思っています。
      まだブログの途中で、迷走している最中だった頃なので、暗い雰囲気の話になってますが、いつか全てを受け入れて幸せになれると信じています。
      もし息子が、将来、筑紫さんのような考えになれたら、ホントに幸せです。

      希望のあるコメント、ありがとうございました。