03 不信

研究者が、障害児を持つ親の心のプロセスを調査したものは、何種類かあるけれど、統合失調症の子を持つ親の心理のプロセスには、他には無い、ある心の働きがある。

それは、「不信」

他の病気の子を持つ親より、圧倒的に多いのではないかと思う。

研究者は、医師であることが多いので、気が付かないのかもしれない。もちろん、「不信」という状態がない人もいるかもしれないが、私は、ほとんどの統合失調症の子の親は、この状態を経験すると思う。

これは、病院や医者に対するものだ。

息子が、予期せぬ退院をし、薬は2週間分処方されていた。2週間以内に、初診で診てもらったクリニックへ行けば良いのだか、私は退院の翌々日にはクリニックへ息子を連れていった。

病院の主治医に不信感を持っていたからだ。

Hクリニックの女医さんは、ずいぶん驚いていた。「何があったか分かりませんが、正直なところ、もっと入院していると思っていました。」と。

私は、自分が怒られているような気がした。

そして女医さんは、髪をくしゃくしゃとかきむしるようにしながら、紹介状を見た。そして、「妄想性障害!?」と声に出し、「…私はもっと…統合失調症の方だと…思いますけどね…」と、小さな声で絞り出すように言ったのが聞こえた。

「おかあさん、統合失調症というのは、予後は…油断は出来ません…」

先生が続けようとしている言葉の先にあるものが、私にはわかった。

わかります。幼なじみが、精神分裂病で自死しました。

私は、話が長くなり集中出来なくなっている息子に聞こえないかとヒヤヒヤしながら伝えた。

すると、その女医さんは、少しほっとした様子で、「おかあさんが、それをわかっているなら大丈夫でしょう」と。

息子は、聞いているのかいないのか…。表情は相変わらず強ばり、うつむき加減に前を向いたまま、貧乏ゆすりをしている。

統合失調症と言われても、何の事か分からなかったと思う。

その後女医さんは、再びパソコンを睨みながら、「薬もぜんぜん足りない…」と、独り言のように呟いていた。

そして息子に、なにか変わった感じがないかを聞き、息子が「べつに」と応えると、しばらく考え込んでから、「まだ、薬はこのままにしておきます。来週、また来てください。」と。

なんで退院になったかなんて、こっちが聞きたかったし、攻撃的な言葉で怒ったり、しつこく責めたり、妄想の話をした時にどういう対応をすればいいのか、教えて欲しかったけれど、息子の前では聞けなかった。

薬が足りないと言っていたけれど、何がどうして足りないのか?どのくらいが足りてる状態なのか?薬を飲み始めてからの方が、過去のことを思い出して怒り出すことが、多くなった気がするんだけど…。

結局、薬の効果や副作用すら聞けなかった。

息子は、妄想性障害?統合失調症?

これからどうすればいいの?

心理療法とか家族療法とか、薬だけではなくて、何かないの?

私は、息子に最善のことをしたいと思っていたから、物足りなさを感じていた。

当然のように、他の病院も調べてみた。

すると、とても親身に話を聞いてくれるクリニックがある事が分かった。内科と心のクリニックという触れ込みで、薬は漢方薬がメインらしかった。口コミの評価が高い。予約はいらないが、すごく待たされるらしい。

私は、さっそくそのクリニックへ息子を連れていった。

開拓されてできた古い分譲地の山の上に、ログハウスのようなクリニックはあった。

中は木のぬくもりのある温かみの感じられる作りで、たくさんの本が置かれてあり、カフェの様な待合室だった。

待合室には、5~6人ほどしか人はおらず、付き添いで来ていると思われる人もいたので、3組ほどだったか。

空いてるから、すぐかな…

と思ったのだが、なんと私たちは、3時間近く待たされた。一人にかける時間が長いのだ。

ジッとしていられない息子から、何度も帰りたいという催促があったが、せっかく来たからと、帰りたがる息子をなんとか説き伏せて、私たちは待った。

そして、やっと順番になり診察室へ。

そこには、熊のような風貌の優しそうな先生がいた。先生は、息子や私の顔を見ながら、時々うなづきながら、話を聞いてくれた。

熊先生は、この子くらいの年には、そういう事がある、と。急激にホルモンのバランスが変化する時だから、色んなことがある。また、いつでも話したくなったらおいで。

そう言ってくれた。薬は出なかった。

人柄の良い医師だなと思った。息子に聞いてみた。どう?また来る?

「絶対来ない!」

なんで?

「待たされるのが嫌だ!」

でも、いい先生だったよね。

「べつに!」

実は、私も、どうかと思っていた。確かに人柄の良い先生だと思う。でも、息子の状態って、思春期の色々あるからって言うレベルだろうか…?

その夜、入院前に見ていただいた臨床心理士さんから電話があった。あれから息子がどうなったか心配してくださったのだ。

私は、退院し、最初のクリニックに戻った話や行ったばかりのクリニックの話をした。どこか良い病院を教えてもらえないか…?この人なら知っているはず。

すると、その臨床心理士さんは、ピシャリと少し厳しい、でも真剣な口調で、

「医療ショッピングをしてはいけません!」と言った。

私は少し驚いた。良い医者に出会いたい。息子に最善の医療を受けさせたいのだ。

「おかあさん、最初のHクリニックの先生は、統合失調症を分かっています。その先生は、覚悟があります。その先生で大丈夫! 今日診ていただいたクリニックは精神科ですか?」

私が、おそらくメインは内科だと思うことを話すと、

「そこはいけません。内科は内科です。精神科をきちんと学んだ医師でなければいけません。」

私の迷いは払拭された。

戸惑い、迷い、どうしたらいいのか判断出来ずにいた私に、始めて、真っ直ぐな1本の道を示してもらえた気がした。このタイミングで、臨床心理士さんが、私に電話をくれたことも、何かの「めぐり合わせ」のように思った。

特定の宗教を信じているわけでもないし、信心深いわけでもないけれど、「運」や「縁」今回の「めぐり合わせ」のような、大きな自然の流れの中に身を任せるしかないこともある。

私は、週1でアルバイトで来ているだけだろうと思われる、Hクリニックの女医さんを、信じることにした。

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