01 衝撃

初めて、息子の言動がおかしいと感じた時、例えようのない不安に襲われた。まるで、深くて暗い海の中で、息ができないような感覚。

妄想が出始め、不安が絶望に変わるまでに、1週間ほどあった。

その間私は仕事をしていたので、仲の良い同僚に、息子の英雄的な話のひとつをしたのだ。

どう思う?有り得ないよね?

その友人は、心配そうな顔で「学校に聞いてみれば…」と冷静な判断をしてくれた。

学校に確かめなければならないことは分かっていた。けれど、すでに私は普通の判断が出来なくなっていた。

一時的なものかもしれない。すぐに良くなるかも。そう思おうとする自分がもう一人いた。

けれど、普通の母親はどういう対応をするのか。友人は私を地に足の着いた状態に引き戻してくれた。

そして、学校に確認し、妄想があることが決定的となった。

それまでの不安は絶望と悲しみに変わった。もう、この暗くて冷たい海の中からは、逃れることが出来ない。私は深い海の底に、何も抵抗することが出来ないまま、沈んでいくような感覚だった。

手は震え、食事は喉を通らず、夜も眠れなくなった。

息子から目を離すと、どこかへ行ってしまうのではないかと、夜中に何度も、寝ているか、部屋にいるか、見に行った。

幼なじみが自死していたから、息子が死んでしまったらどうしよう…。そんな事が絶えず頭の片すみにあり、落ち着かなくて、なにかしようとしても集中できなくて。心は悲しみでいっぱいで。頭の中は、息子のことばかりになった。

私は仕事を休んだ。

高校は春休みになっていた。

私は、毎日、朝から夜まで、息子とともに家で過ごした。

「テニスやろう!」と息子を誘って、自宅前の少し広めの道で軽くテニスのラリーのようなことをしたり、バトミントンをしたり。

「買い物行こう!」とスーパーへ出かけ、アイスだったりスナック菓子だったり、「みんな(他の兄弟たち)に内緒ね♪」とふたりで食べたりした。

「マッサージやってあげようか!」と、肩や背中、足、手のひらなどをマッサージした。

疲れている神経を休ませなければ!妄想ではない現実を実感させなければ!!

そう思った。

もうすぐ高3になろうという男の子が、母親にこんなにもベッタリとくっつかれて、普通なら嫌がるだろう。

けれど、やはり息子は病気だったのだ。

週末には田舎の祖父母の家に連れて行った。おじいちゃん、おばあちゃんに会い、田舎ののんびりした空気の中で過ごせば、少しはいいかもしれないと思った。

けれど息子は、祖父母の前で、私が息子の知人のヤクザを刺したという話をし、祖父母を驚かせた。

今までで、一番、起こりえない妄想だった。何しろ、母である私が、刀でヤクザを刺したというのだ!「そんな事やっていない」「刀なんてないでしょ」「そんなことしたら、今頃警察につかまってるでしょ?」

祖父母の手前、思わずそう言ってしまった。すると「おまえ、忘れっぽいからな。いつもそうだ!なんで忘れるんだ!!」と息子は怒りだした。

慌てて、「そんな事あったかなー。確かに母さんは忘れっぽいけどさ」と、妄想を否定も肯定もせず、忘れっぽいという事実を認めて、現実の話をするようにした。「それより、夕飯は何が食べたい…?」と。

夜、息子は毎晩のように出かけていた。深夜過ぎるまで帰ってこないこともあった。どこに行くのか聞いたら、

男性恐怖症の女の子がおり、その両親に頼まれて、行かなければならない。自分が行かないと大変なことになる。

妄想の話で出かけるとなると、これ程不安なことはなかった。精神疾患があると思われる人が、事件を起こしてしまったようなニュースが頭をよぎった。

私は不安で心配で、息子の後をつけた。けれど、息子の自転車をこぐ速度についていけるわけもなく、すぐに見失った。

帰宅するまで、ただ、祈り続けた。どうか、何事もなく無事に帰ってきますように…

私は、無力だった。冷たい海の底で、息子の無事を祈り続けるしかできない、無力でちっぽけな母親だった。

仕事を、突然1週間も休んでしまっていた。職場にも迷惑はかけられない。

ありがたい事に、他の子どもたちが春休みに入った。私は、「大地から目を離さないで。できるだけそばにいてあげて。テニスとかも付き合ってあげて。」と、大地の姉である月子や中学生の弟の空と海に頼んだ。(名前は仮名)

私は、大地の事しか頭になくて、「今日は誰が家にいる?」「月子!海と空は大事な用があるみたい。今日は月子が出かけるのやめて、家にいてもらえない?」と、他の子どもたちに頼りながら、日中は、絶えず家に誰かがいて、大地の様子を確認できるようにしながら。仕事から帰宅すると、テニスやマッサージを繰り返し、なんとか次の1週間を過ごした。

そしてやっと、予約した児童思春期外来のある精神科を受診。初診の翌日から入院となり、私は深い深い悲しみと同時に、これで、やっと、少し楽になれるという現実の生活を思った。

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