05 過去

私は看護師をしている。

…が、看護師だから病気に詳しいという訳では無い。

30年近く前、看護学校にいた頃、一通りの勉強はしたし、内科、外科、小児科、手術室、他、各科に実習に行った。それぞれの科で患者を受け持ち、その人にとっての最善となるように看護計画を立て、それを行う。

衛生を保つことが必要なら、洗髪をしたり身体を拭いたり。リハビリが必要なら危険の無いよう歩行に付き添ったり。

もちろん精神科でも実習した。

私の受け持ち患者さんは、誇大妄想のある精神分裂病(今の統合失調症)だった。60代のその男性は、自分は皇族であると信じていた。

幼い頃、父親から虐待を受けていたらしく、20代から、その実習先の精神病院に入院していた。

その病棟では、食事は、ホールのような場所でみんなで食べていた。その患者さんは、毎日決まった席があり、一つだけ色の違うイスに座っていた。

毎日決まった流れがあり、その規則正しい流れを妨げないようにしなければならなかった。看護学生として、できる事が浮かばなかった。話しかけることもできなかった。きちんと服薬しているかどうかを確認するくらいだったように思う。

私は、数週間の精神科実習を終え、自分のいる世界とはまるで違う世界にいたかのような感覚を覚えていた。

やがて卒業後は、病院に勤務し、何科が希望であるか聞かれるだろうと思ったけれど、内科、外科、ホスピスや重症心身障害者の病院、いくつも選べる中で、精神病院だけは、選択肢にないなと思った。

そこに、看護師としてのやりがいを見出すことができないと感じたし、精神病を理解することが難しかったのだ。

そのため、勉強もあまりしなかった。

ちょうどその頃、幼なじみの男の子が、精神病ではないかという噂を聞いた。

近所の人が、「おかしなことを言ってるけど、ちょっと休めばいいよね」「薬飲んだら、返って悪くなったらしいよ」「入院したらしいけど、暗くなっちゃって、笑わなくなって、家族が連れ帰ってきたらしいよ」「部屋に閉じこもって出てこないらしい。お風呂も入らないって」などなど。

病名は誰も知らなかった。

私は、その子とは疎遠になっていたし、少し気になりながらも、何も関わることなく暮らしていた。

それから、14-15年ほど経ったある日、その子が自死したと聞かされた。

あれから、その子は入退院を繰り返し、その時は退院して家にいた。最近、良くなってきたねと、家族が思っていた矢先のことだったという。

お葬式の時、その子の母は、「ごめんね」と小さな声でつぶやいていた。私が、母の次に大好きな、近所のおばさんだった。

私の周りには、確かにいたのだ。私は、おそらく統合失調症を知っている。

けれど、無知で愚かな私は、息子が精神病になるまで、気づかなかった。

前駆症状が、あったはずなのに…。

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