04 陰性症状からの脱却(アルバイト)

警察官試験を終えて、起きている時間が長くなってきた大地は、少しばかり時間を持て余していたのかもしれない。「バイトしようかな〜」と、ぼんやりとつぶやくようになった。

とはいえ、なかなか行動には移さない。デイケアなどもあると伝えてはみるが、それにはまったく興味を示す様子はなかった。

そんなある日、父親からの「毎日遊んでばっかりだな。バイトでもしたらどうだ!」の一言が。

私は、ちゃんと自分からやる気が出るまで待つべきだと話したものの、後の祭り。まるで何かのスイッチが入ったみたいに、大地はバイトを探し始め、面接し、あっという間にコンビニバイトを見つけてきた。

まだ早くなかったか?これは大地の本意なのか?まだ、無理しなくてもいいんだよと声をかけたものの、「いや、バイトしようと思ってたし。」とサラリとした返事。

こうして大地はバイトを始めた。

最初のコンビニバイトは、棚の整理とかレジなど、割と早めに色々と教わっていたが、やがてレジと揚げ物が同時にできないとか、タバコの銘柄がなかなか覚えられず、お客さんの目つきや態度が気になり始める。症状の再燃だろうか?

やっぱりまだ早かったのか…

大地は、私が言うまでもなく、自分でバイトを辞めると決めて、その1ヶ月後に退社。この1ヶ月間の間に症状が酷くなったらどうしようかとハラハラしていたが、お客さんの目が気になるなどの話はまったくすることなく、バイト先とも良い関係のまま、辞めることが出来た。

それから2週間ほどだろうか。友だちの松下くんがやっているバイト先を紹介されて、大地は再びバイトを始めた。今度は長く続くだろうかと心配していたが、結局1年以上続いている。

この二つ目のアルバイトは、ネットカフェなのだけれど、仕事量は多いけれど、一度に二つ以上の業務をこなさなければならない事が少ないらしい。アルバイト仲間は、ほとんどが大学生などの同世代の子。話も合ったのかもしれない。

ここで大地は、警察官試験を受けて警察学校に入ったものの、途中で辞めた少し年上の子と知り合う。彼は大学を卒業したものの、大地と出会った時はフリーターだった。

警察官試験の合格者だし、バイクが好きなど趣味も合い、大地の新しい友達となった。

警察官という名称が出ただけで、これは本当の事なのか妄想の中の人なのかと、疑わなければならなかったが、どうやら本当にいる子らしかった。とても真面目でバイトリーダーもこなしており、大地の話によると「やばいよ。めっちゃ礼儀正しい!敬語とか完璧」というし、1度でも警察官を目指したわけだから、きっと悪い子ではないのだろうと、会ったことの無い新しい友だちが大地に良い影響を与えてくれると良いなと、不安と期待を寄せていた。

それから大地は、松下くん、翔くんに加えこの新しい年上の友だちケイくん(仮名)とも、時々会うようになっていく。

アルバイト先では、他にも出会いがあったようだ。建築現場の日雇い作業員でネカフェで暮らしている(?)人もいるし、おばあちゃんで、毎日通ってくる人もいるようだ。中にはクレーマーのような人もいて、松下くんはその人に絡まれるため、その人の来る時間帯にはシフトには入らないように調整してもらっていたりとか、小さなネカフェでもいろんな出来事があるようだった。「オレは人を殺ってる!」という人がいるというので、そんな世の中ではありそうもない話が出るたびに、不安にはなったが、“妄想があって、だからなんだ!その人がいたとしてもいなかったとしても、大地の生活に影響はない!”と思うようにしていたので、そんなときは、ちゃんと夜眠れているか、薬は飲んでいるか、人の視線が気になったりしていないか、その辺りの確認だけをした。しばらくして、人を殺したことがあるとかっていう人、どうなった?と聞くと、「出禁になった!」というので、本当のことだったのだろう。

こうして、週3~4回ほどバイトをし、他の日は友だちと会い、それ以外はごろごろしたり寝たりという生活となった。

バイトは、深夜までのことがあり、帰宅後、動画など見ていたので、寝るのは朝方のこともあり、相変わらず規則正しい昼型生活とはいかなかったが、ほんの少しづつだけれど、陰性症状から脱却してきていると感じていた。